梨沙ちゃん
前回の続き。
ある日、良太(あだ名)から珍しく連絡が来た。今日の夜、女の子2人と一緒に遊ばないかという誘いだった。当時、大失恋真っ最中だったおぃらはね。「しょうがねーなー」と言いつつスキップをして夜を待った。
終電ギリギリくらいの夜になり良太と合流して駅に女の子達を迎えに行った。ドキドキが止まらない瞬間だ。駅のホームから降りてきた女の子たちは少しギャルっぽい感じの可愛い2人組だった。梨沙ちゃん(仮名)とあかりちゃん(仮名)だ。心の中のガッツポーズが止まらなかった。
あかりちゃんはどういう友達だか知らねぇけどね。良太の友達だった。背が低くくて明るい子だった。梨沙ちゃんはあかりちゃんの友達。少し大人っぽくてね。背が高い子だった。
4人で良太の車に乗って夜の滝を見に行く事になった。山の中にある滝で昼間にしか行った事がなかったけどおぃらは嫌だった。恐い。でもね。恐いとは言えねぇ。格好つけたくなっちまうもんだ。真っ黒な山の中に車を停めてね。そこから歩いて滝に向かった。真夜中の山なんてね。不気味以外のなんでもねぇ。何かでそうで恐かった。ドキドキが止まらねぇ。恐怖に対するドキドキとね。女の子に対するドキドキがね。なんだかよくわからなくなっちまった。良太はあかりちゃんとさっさと先に進んで行っちまうからね。おぃらは梨沙ちゃんと一緒に歩いて行った。梨沙ちゃんも恐がってね。おぃらのジャケットの先を掴んで離さなかった。梨沙ちゃん。可愛いな。おぃらは滝どころじゃなかった。
滝を見てからね。ご飯を食べに行ってね。夜中の4時くらい。2人を送って良太と帰った。良太との1番の思い出かもしれねぇな。
梨沙ちゃんとはそれからメールをするようになった。梨沙ちゃんは彼氏がいなく寂しいと言っていた。おぃらも本当に寂しいと言っていた。その頃のおぃらはね。長い時間を一緒に過ごした彼女がいなくなっちまってね。絶望と孤独の狭間を彷徨っていたから。
それから暫くしてね。梨沙ちゃんに誘われてね。2人でご飯を食べに行った。ただ。ただご飯を食べに行っただけだったけどね。楽しかった。楽しかったんだ。
確か。確かその次の日だったと思う。携帯に知らない番号から着信が入っていた。かけなおすと知らない男性が出た。
「俺の女にちょっかい出してるのはお前か!」
そんな映画みてぇな台詞を吐きつけられた。おぃらはなんの事だか全く解らなかったけどね。話を聞いてるとね。どうもね。彼は梨沙ちゃんの彼氏だった。おぃらはなんだかね。なんだか本当にショックでね。彼の声なんてね。耳に入ってこなくなった。彼は彼でね。今、思うとね。必死だったんだな。確かな状況は解らないけどね。梨沙ちゃんには彼氏がいてね。おぃらと連絡を取っていた事がね。バレちまってね。修羅場だったんだろうな。彼は今からおぃらの所に行くと言ってきた。おぃらは断った。「彼氏はいないって聞いてたしね。ご飯を食べに行っただけだ」と伝えてね。電話を切った。それから2人がどうなったかなんて何も知らねぇけどね。おぃらの心も修羅場だった。
「ずっと一緒にいようね」。
そんな暖かい言葉を毎日。毎日隣で言ってくれていた彼女はいなくなった。絶対なんてない。永遠なんてない。愛なんてない。
そう痛感させられる毎日。それでも。それでもね。愛を求めてしまう毎日。そんな毎日の中だったからね。ショックだった。
梨沙ちゃんと付き合ってたわけでもね。なんでもないけどね。ただ。ただ彼女の言葉は信じていた。裏切られたのはね。おぃらじゃなくてね。彼のほうだ。多分。梨沙ちゃんは今までも繰り返してきたんだろうな。ただ。ただショックだった。
やっぱり愛なんてないんだ。
そう痛感させられた。それから先。おぃらも梨沙ちゃんと同じ様な事をね。何度も。何度も。繰り返してきた。いろんな人を傷付けてきた。いろんな人を裏切ってきた。
梨沙ちゃんは今、幸せかな?
良太。この事、良太と話したかどうかね。記憶にないんだ。良太は同じ事されてもね。笑って許してあげそうだけどな。おぃらは卑怯だからね。傷付かないように。傷付かないようにしながらね。傷付ける事ばかりになっちまった。
また。またどこかで会えたらね。話を聞いてよ。そうなんだ。そうなんだ。おぃら。こんな。こんな屑みてぇな人間になっちまったんだ。
今日のお薦めBGM=Saucy Dog「いつか」