Red umbrella
前回の続き。
付き合う事になったおぃらと美香ちゃん(仮名)。あれだけ大好きで。大好きでたまらなかった人と付き合えた。奇跡みてぇなもんだった。小学校を無事に卒業して。春休み。美香ちゃんや友達と何度かでかけた。でかけたからってね。手を繋ぐわけでもね。抱き締めるわけでもね。SEXをするわけでもねぇ。付き合う。それがなんなのかおぃらにはわからなかったしね。どうしていいのかわからなかった。美香ちゃんの友達とは馬鹿みてぇに話せるのにね。美香ちゃんとは緊張して上手く話せないでいたりもした。今みたいね。携帯電話があればね。少しは違っていたかもしれねぇけどね。当時は言葉や行動でしかね。気持ちを伝える事もね。確認する事もできなかった。
春休みが終わってね。美香ちゃんとおぃらはね。同じ中学校に入学した。だけどね。クラスは違うクラスだった。美香ちゃんはやっぱらマドンナみたいな存在でね。キラキラ輝いていた。演劇部に入部してね。楽しそうにしていた。だけどね。おぃらと美香ちゃんはね。自然と会う時間もなくなってね。話す時間もなくなっていった。おぃらは友達と毎日。ただ馬鹿みてぇな事をしててね。それが楽しかった。
あの頃はね。誰かを好きだとかね。誰かと付き合ってるとかね。そんな事を友達に話すのも小っ恥ずかしくてね。言えなかったしね。付き合っているのかどうかさえわからなかった。
中学生になってね。3ケ月くらいたったある日。美香ちゃんの事が好きだというクソ野朗が現れた。サッカー部の爽やか男子だ。爽やか野朗はクソ童貞野朗なおぃらと違ってね。堂々としていた。そんな爽やか野朗とね。美香ちゃんが楽しそうに話してるのをね。偶然見ちまった。おぃらはなんとも言えない気持ちになった。嫉妬だったのかもしれないけどね。なんとも言えない気持ちだったんだ。
その日の放課後。今でもはっきりと覚えてる。美香ちゃんは校門の所に立っていた。おぃらはこっちを見て微笑んでくれていた美香ちゃんを無視して通りすぎた。
大好きなのに。大好きだったのに。いろんな記憶が曖昧なのにね。あの時の事はよく覚えてるんだ。あれから。なんとなく。なんとなく気まずくなってね。おぃらは美香ちゃんと話す事はなくなった。今でも後悔してる。あの日。あの時。あの瞬間。いや。他の瞬間でもだ。おぃらがもっと大人なら。強けりゃあ。爽やかなら。携帯電話なんかなくてもね。メールで伝える事ができなくてもね。ちゃんとね。ちゃんと気持ちを伝えていれたかもしれねぇ。違う未来になっていたのかもしれねぇ。今でも後悔してる。
中学2年生になってね。美香ちゃんは学校に来なくなっていた。おぃらは気になってよく美香ちゃんの家の前を通っていた。
ある日の授業中。ぼんやりと授業を聞いていたおぃら。教室がざわざわしだしてね。廊下を見るとね。雨も降ってねぇのにね。廊下を赤い傘をさして歩く女の子がいた。美香ちゃんだった。
あの時の景色は忘れられねぇ。
明るくてね。誰とでも仲良くできてね。可愛いくてね。ずっと見てきたはずの美香ちゃんの顔をね。久しぶりに見たらね。違う人みてぇになっていた。
それからもね。美香ちゃんをたまに見る事はあった。美香ちゃんは授業には出てなくてね。よく校舎裏で不良と一緒にたまっていた。
後になって聞いたけどね。美香ちゃんの両親が離婚をしちまったりね。友達グループとうまくいってなかったりね。おぃらがぼんやりとしている間にね。美香ちゃんの世界ではいろんな事があってね。きっとね。普通ではいられなくなっちまったんだ。
美香ちゃんは多分。高校には行っていない。最後に美香ちゃんを見たのはいつかな?最後に話したのはいつかな?最後にあの笑顔を見たのはいつかな?
おぃらがもっと。もっと大人ならね。強ければね。美香ちゃんに寄り添う事ができたのかな?美香ちゃんを支えてあげる事ができたのかな?
美香ちゃん。
あなたが今。
あなたが今。
笑っている事。
家族と笑っている事。
なんだかね。
凄く嬉しいんだ。
あなたはもしかしたらね。
おぃらの事なんて忘れてるのかもしれねぇ。
それでもね。
おぃらはあなたを忘れませんでした。
大好きな人ができてもね。
大好きな人と別れてもね。
死にそうな夜もね。
消えちまいそうな夜もね。
どんな事があってもね。
たまに。
あなたを思い出します。
思い出の中のあなたは。
いつも笑っていて。
可愛くて。
だけどね。
切なくて。
哀しくて。
赤い傘の意味。
あなたの哀しみ。
笑顔の裏にある傷。
苦しみ。
何もできなくてごめんね。
思い返してみればね。
あなたの笑顔を見なくなって。
おぃらも変わっちまった。
遠くから。
こんな遠くから。
あなたの幸せを願ってます。
あなたの子供に恋をする子もね。
きっと。
きっと沢山いるんだろうな。
あんなに純粋に人を好きになれたのはね。
あなたが最後でした。
ありがとう。
今日のお薦めBGM=OKAMOTO'S「NO MORE MUSIC」