蝉

どいつもこいつも元気にしてるかい？夏が凄い早さで通り過ぎて行ってんな｡


海｡お祭り｡花火｡ｶﾌﾞﾄﾑｼ｡蝉｡風鈴｡かき氷｡ｽｲｶ｡蚊取線香｡野外ﾌｪｽ｡甲子園｡夏休み｡一夏の恋｡薄着の女の子｡水着を着た女の子｡浴衣を着た女の子｡


夏の風物詩も見納めになってくなぁ｡










早朝｡朝焼けの太陽に包まれているとおぃらはあまりのうるささに起こされた｡蝉だ｡朝っぱらから彼等はおぃらの部屋の外で大合唱を始めやがった｡｢ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ｣うるせーんだよ｡



蝉ってよ｡生きて何週間とか短いらしいな｡たった何週間の為によ｡一生懸命､土ん中で育ってよ｡ありったけの力振り絞って殻破って外に出たと思えば｢ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ｣鳴くだけだよ｡
何をそんなに鳴いているんだい？何をそんなに泣いているんだい？





花火もそうだしよ｡夏の風物詩ってのはﾅｾﾞか一瞬だ｡蝉もそのたった何週間の間を花火の様に咲き誇るんだろうな｡きっとよ｡｢俺は生きてんぞ!!｣って鳴いてるのかもしれねぇな｡
蝉もその短い一生のうちに恋をしたりしてよ｡結ばれる蝉もいりゃあ結ばれねぇ蝉もいるのかな｡でもよ｡もし結ばれたとしてもよ｡何週間しか一緒にいられないんよな｡
もしかしたらよ｡好きな相手が人間に殺されて泣き(鳴き)叫んでる蝉もいるのかもしれねぇ｡愛し合う2匹が木にとまって｢ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ､ﾐﾝ｣ってよ｡｢ｽｷﾀﾞ､ｽｷﾀﾞ､ｽｷﾀﾞ､ｽｷﾀﾞ｣って愛を育み合ってたらよ｡夏休みで暇を持て余した虫ｶｺﾞと網を持ったｸｿｶﾞｷの好奇心から好きな相手を捕られちまうんだ｡｢ﾀｽｹﾃ､ﾀｽｹﾃ､ﾀｽｹﾃ､ﾀｽｹﾃ､｣って虫ｶｺﾞの中から泣き叫ぶ愛するﾓﾉを助けようとしてもｼｯｺをｸｿｶﾞｷにひっかける事くれぇしかできねぇんだ｡可哀相によ｡







もしもね｡もしもこの世界に巨人達がいてよ｡巨人の子供達がおぃらの愛する人を好奇心から捕まえて人間ｶｺﾞに入れちまったらどうしたらいいんだろうな｡
おぃらには泣き叫ぶ事やｼｯｺをかける事くれぇしかできねぇのかな｡なんだか恐くなってきちゃったよ｡いつかおぃらに子供が産まれたら蝉だけは獲らねぇように教育しようかな｡





おぃらも蝉の様に何週間しか生きられねぇって解ってたらきっと毎日を大切に全力で生きるんだろうにな｡やりてぇ事だけしてよ｡一緒にいてぇ奴といてよ｡



神様は命を無駄にしねぇ為に命に終わりを作っただなんて言われてるけどね｡馬鹿なおぃら達には｢死ぬ｣と言う事がどうもﾘｱﾙには想像できねぇからよ｡毎日毎日を明日死ぬかもしれねぇだなんて思って大切にできねぇ｡老後が来る事が当たり前の様に毎月毎月､年金払わされてよ｡おぃらはやっぱり少しは先を考えて生きちまう｡





これからは毎月月末におぃらは死ぬって考えて生きてみようかな｡そうすれば少しは毎日を大切に生きられるかもね｡





このままじゃいけねぇ｡このままじゃいけねぇ｡そんな事を思いながら毎日を生きていると息苦しくなっちまう｡勇気をおくれ｡強さをおくれ｡愛をおくれ｡おぃらは蝉の脱け殻だ｡

飛び立たねぇと｡

蝉よ｡ありがとう｡

今日のお薦めBGM=蝉｢泣き(鳴き)声｣